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書評倶楽部・團十郎の歌舞伎案内

産経新聞 2007年6月21日





 最近、地球温暖化や循環型社会のあり方など、環境について調べていくうちに、江戸の文化や知恵にたどりついた。かまどの灰から人間の屎(し)尿(にょう)まで、あらゆるものが有効にリサイクルされていたり、練馬大根や小松菜に代表される江戸野菜は「三方四里」、今でいう地産地消の産物だったりと、江戸の社会から学ぶことは多い。
 十二代市川團十郎さんの新著は歌舞伎の世界を通じて江戸を知る絶好の案内本となった。青山学院大学での特別講義をベースとしている本著は語り口調が新鮮、かつわかりやすい。歴史の授業だけではわからない「なるほど、そうだったのか」の連発である。
 西洋の演劇やオペラと歌舞伎の世界の違いなどにいたっては、文明・文化論そのものである。「歌舞伎には演出家がいない」というくだりは特におもしろい。明確な分業に基づく西洋の演劇の世界と違って、歌舞伎では座頭という立場の役者がすべてをこなす。役者の仕事に専念するだけでなく、大道具、衣装、床山から役者の演技など、舞台全体を見渡して作っていくのが歌舞伎の文化だと、團十郎さんは解説する。
 男の世界で、世襲で、ときには見えを切ることもある永田町の世界は歌舞伎に通じると、私はどこかに書いたことを思いだした。
 「成田屋」(屋号)を受け継いできた著者だからこそ、代々の團十郎の個性や考え方によって、いかに芝居の内容が変化してきたかもわかる。「ウソがほんとうに見えて、ほんとうがウソに見える―それが歌舞伎の世界観なんですけれどね」と、永田町の住人にはさらっと言えないけれど。
 日本文化の伝承者として、團十郎さんのご病気が完治することを祈りたい。そして、もう一度ゴルフのお手合わせをさせてもらいたいものである。

■産経新聞 2007年6月21日





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