ボタン
プロフィール 基本理念 活動記録 コラム・論文 アルバム ムービー メルマガ 後援会:フォーラムユーリカ



金王朝「最後の審判」

SAPIO 4月9日号





 経済制裁の続くなか、もはや金王朝の財布も空っぽかと思われたが、さすが悪巧みにかけては一流国家の北朝鮮である。偽札や偽タバコを凌ぐ大規模な闇資金調達の手口を編み出したのだ。
 国際的保険金詐欺― その驚くべき実態を明らかにするのは、小池百合子衆議院議員である。かねてより北朝鮮問題を追及してきた小池議員は、密かに進めていた徹底調査により、この詐欺の全貌を掴んだ。

 私はこれまで「拉致議連」副会長を務めるとともに、一連の朝銀問題、つまり日本政府の北朝鮮系金融機関への税金投入問題や不透明な資金の流れについて、国会の場などで厳しく追求してきた。日本金融の混乱に乗じ、その上前をはねる北朝鮮の狡猾な手法には舌を巻いたものだ。ましてや日本から貢がれる資金の領収書代わりにテポドンが飛んでくるなど、とんでもない話だ。拉致や核開発を含め、今こそ北朝鮮の暴走に楔(くさび)を打ち込み警鐘を鳴らす必要がある。
 そこで私は、協力者とともにチームとして、長期にわたる綿密な調査を続けてきた。その結果、北朝鮮が新たな手口で数百億円規模の国際的保険金詐欺でテロ資金づくりをしている決定的証拠を掴んだ。それは人類が性善説をもとに確立した世界のルールを逆手に取った実に卑劣な手口だった。

 その典型が、テロ資金、金正日の秘密資金稼ぎの悪質な手口の数々だ。彼らは偽札、覚醒剤、偽バイアグラなどを輸出し、資金稼ぎに奔走してきた。彼らの狡猾で悪質な手口に業を煮やした米国が中心になり、バンコ・デルタ・アジアの口座を凍結、日本も万景峰号はじめ北朝鮮から寄港する船に対して経済制裁を加えた。このため、彼らの悪の経済水脈はほとんど枯渇したかに見えた。
 ところが、である。今回、われわれが掴んだのは、この当時、追い込まれた北朝鮮が、陰でなおかつ世界をあざ笑うがごとく、多額の保険金詐欺で資金を稼いでいた実態である。
 ここに、今回の保険金詐欺の被害者となった欧州の保険会社に対し、北朝鮮から提出されたA4版17ページの「ヘリコプター事故」調査報告書がある。作成は北朝鮮の航空技術連合総局となっており、公文書の証明である印鑑が捺されてあることから、国家が関与した文書であることは間違いない。
 その報告書によれば概略、次のような事故であったと報告されている。  事故期日は2005年7月9日午後11時すぎ。場所は平壌の兄弟山区域という郊外地域での出来事だ。
 事故発生からさかのぼること約3時間前、北朝鮮保健省から出産予定間近の三つ子の産婦の生命の危機を知らせる通報を受け北朝鮮最大で唯一の航空会社、高麗航空会社に緊急ヘリの出動要請がなされた。これを受け、旧ソ連製「ミ8型」軍用ヘリが出動した。
 ヘリは要請を受けるとただちに平壌病院の医師と看護人を乗せ、産婦がいるチャメド方面に向かう。現地に到着すると、即座に産婦の検診。そして検診後、産婦を平壌病院に運ぶため産婦を載せ再び平壌に向かうため飛び立った。
 ヘリは平壌郊外近くでいったん、着陸態勢に入るため高度を徐々に下げていく。この時、ヘリの機長から「左側エンジンの油圧が下がった」という異常事態を知らせる緊急報告が指揮所に届く。その後、指揮所と2、3の交信がなされたあと、機長からの通信は完全に途絶えた。ヘリは墜落、大破したのだ。
 これによって機長ら乗組員3名と医師、産婦らあわせて6名が死亡、さらにヘリコプターはもとより、墜落地点が数十万点の災害物資を保管する倉庫だったため、それらの物資も完全に消失、莫大な損害が発生したという。
 このヘリによる墜落事故で発生した損害被害総額は、生命保険等で6700万ウォンとされる。これは公式レート1ドル約150ウォンで計算しても日本円でざっと5000万円近い。この額は現在われわれが確認できるものであって、一説には、災害物資の全品目まで加わり、保険金請求額は数十億円にのぼるともいわれている。
 問題は、この金額を支払うのが、北朝鮮の保険会社ではなく、再保険の契約を結んだ欧州の保険会社だということだ。再保険とは、大災害、大事故など巨額の支払いに備えて保険会社が加入する保険で、多額の保険金の支払い義務を受けた保険会社が、引き受けた保険金の一部を国内外の別の保険会社に負担させることで、リスクを分散させるものだ。北朝鮮には保険会社が朝鮮国際保険会社という1社しかなく、そのため経済交流が活発化している欧州の保険会社との間で、再保険契約を結んでいる。
 今回の場合、欧州の保険会社に支払い義務が生ずる。もちろん、再保険制度は今や国際的常識であるから、普通に考えれば疑問を挟む余地などない。しかし、である。もし、この事故が架空のものであったらどうなるのか。欧州の保険会社はまんまと騙され、金だけを巻き上げられるという強盗事件、詐欺事件になるのだ。
 まさか、保険会社も簡単に騙されるわけがないと思われるだろう。しかし、北朝鮮は国家ぐるみで詐欺を働く国であることを忘れてはならない。調査報告書でも明らかなように、最初に保険請求を受けているのは、朝鮮労働党組織指導部傘下に属する朝鮮国際保険会社だ。事故の証明、乗組員の証明なども全部国のお墨付きで本物。さらに、この調査報告書はもともと、事故を起こした高麗航空と朝鮮国際保険会社の間で、事故の実態と損失をめぐって北朝鮮で裁判が行なわれた際、裁判所に提出されたものとされる。
 ここまで揃えば、再保険会社が騙されるのも無理はない。当の再保険会社は、テロ支援国家とのつながりを問われることを恐れ黙秘しているが、保険金が払われた可能性は極めて高い。
 驚くべきことに、この事故は完全な捏造、でっちあげであることが調査を通じて判明した。
 まず、この事故では、三つ子を懐妊した産婦が生命の危機ということでヘリが出動、事故が発生したとされる。確かに三つ子は朝鮮では慶事の前兆として尊ばれるものだ。だから宣伝のためにあらかじめ都市部の大病院に連れてきてメディアで報じられていてもおかしくない。しかし北朝鮮の病院、航空会社がこれほど速やかに連絡を取り、ヘリが緊急出動するなど、まずありえない。北朝鮮の場合、人の移動には旅行証明書、配給券の移動手続きなど複数の厄介な手続きが必要だ。緊急時であっても右から左に簡単に移動するなどは絶対不可能だ。北朝鮮の人が今回の報告書のストーリーをみればひと目で嘘と見抜く。
 また、それだけの大事故ならば、救助活動などもろもろの現場写真があるはずだが、報告書に写真があったのは損壊したと思われる機体のみ。場所も特定できず、事故報告では必須とされる機体番号やエンジン番号の写真もない。あとは現場で救助あるいは捜索活動に従事した人の記憶をもとに描いたという絵が追加資料として添付されていただけ。事故直後に現場を訪れた者によれば、そこには事故の痕跡など何もないまったくの更地だったという。
 この事故では、操縦者など乗組員らの家族に航空会社が補償金を支払ったともいう。その額は約960万ウォン。日本円にして約700万円だ。北朝鮮の一般労働者は、月に1000円から2000円の月給、実勢レートでは300円前後といわれるなか、ありえない金額である。  すべて多額の保険金をせしめようという一点に基づいた偽装工作とすると、符丁が合う。一連のヘリ事故が偽作というということは明白なのだ。
 さらに驚くべきことに、こうした大々的国際保険詐欺は実はヘリの事故だけではなかった。他にも複数行なわれていることをわれわれは掴んだ。そのひとつが船舶沈没詐欺である。
 それはヘリの事故より、約1年後の06年4月に発生したことになっているケースだ。
 北朝鮮東部の日本海に浮かぶ「浮島島」付近で定期旅客船「恩徳一号」が沈没し乗客約190人が死亡という、世界的に見ても近年まれにみる大事故が発生したという。しかしそれだけの大事故なら、かつての北朝鮮の鉄道事故のように大々的に報道され国際社会から援助金を募ってもよさそうだが、そうした動きはまったくなかった。海上保安庁、海上自衛隊も救難信号をキャッチしていない。
 そもそも定期旅客船が走っていたとされる元山と咸興間には定期航路など存在しない。この旅客船について、脱北者らに聞いても誰も見聞きしたこともない。さらに元山にある大型船はたった一艘であり、かつ、その船は沈没して、すでに、ない。また、元山人民委員会の報告には定期船の運航計画、給油計画など公文書にひとつも残されていない。すべてが公文書として残される文書国家・北朝鮮とすれば考えられないことだ。挙げ句、この沈没事故で再保険を受けた保険会社の調査団が入り調査をしようとしても、沈没海域1000メートル海底で調査は不可能としてビザを出そうともしない。
 そして、ここでも出てくるのがヘリ事故と同じ保険会社、朝鮮国際保険会社だ。乗客と船にこの会社の生命保険がかけられ、さらに再保険はこれまた欧州の保険会社にかけられていた。
 乗客ひとりあたりに支払われた保険金額は当時で10万ドル、日本円で1100万円。人災だけで2000万ドル、日本円で約20億円にものぼる。プラスこれに船舶被害分が加算される。しかし、通常は人が死んでも酒2〜3本、小麦粉20人分程度が配給されるだけという国で、死亡対価が1000万円などというのはおよそ荒唐無稽である。
 この2件以外にも、私のもとには似たケースの情報がよせられていることから、すでに保険金詐欺は常態化しつつあると見ていい。そこで得た金はすべて金正日の秘密資金になっていると考えられる。
 日本は北朝鮮の核実験の強行などを踏まえ、万景峰号はじめすべての北朝鮮船籍の入港を禁止し、輸入も禁じる厳しい措置をとってきた。
 しかし、この詐欺は、日本が経済制裁の一環として05年より入港する100t以上の一般船舶に保険加入を義務づけた頃と時期が重なる。このとき再保険制度を学んだ北朝鮮は、これを逆手にとった詐欺を編み出したとしても不思議ではない。
 ブッシュ政権がニューヨーク・フィルによる演奏会などでモード転換を演出する中、日本でも対北朝鮮政策を緩和し新たな外交路線をとろうという動きも見受けられる。だが、核開発の内容を申告するという6カ国協議の合意内容も、拉致問題も無視し、今回の国際保険金詐欺のような欺瞞を続け、なにひとつ問題解決に踏み出さないのが北朝鮮だ。ここで手綱を緩めてはこれまでの多くの人たちの努力と労力が水泡に帰す。北朝鮮が問題解決に明確な姿勢を示さない限り、わが国は従来の経済封鎖を継続し、北朝鮮には性善説は通用しないと世界に訴え続けていく必要がある。それが拉致など現実的にもっとも深刻で最大の被害を受けているわが国の、国際社会における責務でもある。

■SAPIO 4月9日号





コラム・メニューに戻る