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 着眼グローバル 第1回
 若手の積極登用で道が開ける日本の戦略

フォーブス日本版2001年1月号


 新世紀が開ける今こそ日本の長期戦略が必要だ。まず、若手を大胆に登用するしくみ作りが急務となっている。グローバルな視点から、日本の21世紀戦略の具体的方法論を説く。


 ミレニアムの年、西暦2000年が幕を閉じ、いよいよニューセンチュリー、21世紀を迎えます。グローバル・スタンダードをめぐってさまざまな議論がありますが、この西暦こそ最強のグローバル・スタンダードではないでしょうか。
 そもそもミレニアムはイエス・キリストが再臨し、統治する1000年を示す単語です。ご承知のように、英語などでは100年はセンチュリー、10年がディケイドと時間の概念を一言で表す単語がありますが、日本語では「世紀」を除くと、数字を補足しなければ表現しきれません。
 言葉は文化です。海洋国家である日本には、ブリ、ボラなどの出世魚に見られるように、魚についての詳細な表現があります。一方、砂漠の世界、アラブではラクダに関して数十種類にも及ぶアラビア語名詞があります。生後半年の雄ラクダはカウード、5歳の牝ラクダならナガといったぐあいで、生活、文化と言葉の密接な関係を考えずにはいられません。
 つまりミレニアム、センチュリー、ディケイドという長期の時間的概念に対し、わが国は平成、昭和、大正といったように、天皇の即位とともに変わる元号の制度があります。この違いが日本の戦略性に対する微妙な感覚の違いを生み出しているように思います。
 戦略を立てる際、「何を、何のために、いつまでに、誰が、どこで、どうやって」という、5W1Hが要素として欠かせません。ところが日本人はその重要な要素の一つ「いつまでに」の部分が甘くなる。
IT戦略の立ち遅れにしても、肝心のNTTをめぐる国内論議に20年もの時間をかけ、小田原評定を続けるうちに、すっかり世界からおいてきぼりです。「いつまでに」の設定をあいまいにした失敗例です。
 時間軸に沿ったロングスパンの思考だけでなく、広域の計画や全体の整合性を持たせた計画作りも、日本人には苦手とするところです。女子行員には、1円の単位で毎日の集計に誤りがないか、チェックを強いておきながら、戦略なきバブル経営で、日本経済を奈落に陥れた金融界など、そうした例は枚挙にいとまがありません。
 木を見て森を見ない、縦割り、仲間うちの談合…。反省材料は山積みしていますが、一方でそういう内向きの箱庭、盆栽文化が民生用エレクトロニクスや精密工業などを発展させたプラス面も忘れずに記しておきましょう。わが国には自虐的な感傷に浸っている時間はないのです。

若手登用のインフラ整備を急ごう

 では、どうすればよいか。
 なによりも戦略的思考を持つ人材を、実力が発揮できるポストに登用することです。
 企業においては、バブル崩壊や不祥事の続出が結果的に戦後のパージのような状況を生み出しました。右肩上がり経済をエンジョイしていた時のように、専務派、常務派などと対立し、人間関係による権力闘争をしている余裕はもはや日本企業にはありません。青い目の経営者が乗り込んできた例は、これも枚挙にいとまがありません。外的ショックが日本の企業文化を変えつつあります。世界戦略を描ける人材の登用こそが企業の生き残り、発展の近道と言えます。
 一方、政治、行政の分野ではいまだに年功序列の旧習がはびこっています。どんなに青雲の志を抱き、国家戦略を秘めて政界入りをしても、それを実現できるポストにつくまでに20年、30年もかかっていては政策そのものが陳腐化してしまいます。なによりもその間にしがらみにとらわれ、大胆な改革どころか、守旧派に転じてしまう恐れは大いにあります。
 要は人材とその登用へのダイナミズムの問題です。真に政策立案能力、実行力に富む人、戦略を描ける力のある人が政界に進むチャンスを作るため、候補者の公募制度、予備選の導入を進めるべきです。現職議員や家業を継ぐような感覚の二世、三世の既得権を守ることを優先していては、政界の新陳代謝が進みません。党内の人事でも思い切った若手の登用が進められない政党は衰亡するだけです。
 行政面で言うと、霞ヶ関は2000年1月6日からの省庁再編によって外的ショックを受けるものの、そのうち新たな省益・局益を見いだすことでしょう。もっとも若手の官僚たちの意識はここ数年で大きく変わりつつあります。天下りの先細りを見越して、省益・局益よりも自らのステップのために役所経験を積んでおこうといった感覚です。今年の公務員試験の面接でも、「ずっと役所勤めをします」と答えた学生は皆無だった聞き、驚きました。人材の流出が続く経済産業省(通産省)あたりでは、30代でそわそわし始めています。
 明確な国家戦略が描ききれていない今、中途半端な政治家と中途半端な官僚の組み合わせは最悪のシナリオですが、政治も行政も今が過度期。だからこそ、次なるシナリオを描くインフラ作りが必要なのです。
 大統領選でデッドヒートを繰り広げたアメリカの場合、政権交代とともに各省庁の次官はもとより、局長級まで総入れ替えとなります。大学教授やシンクタンク研究者、各分野の専門家らが、行政との間を行き来し、ベスト&ブライテストによる国家戦略作りが行われています。
 首都ワシントンDCでは毎週のように、学者、政治家、現役外交官、軍関係者や経済政策担当者、民間の金融関係者など、その道のプロが集まってオープンな会議を開いています。テーマは世界戦略。アメリカの位置づけが特殊といえば極めて特殊ですが、人材という戦略のインフラが整っているからこそでしょう。

まずは国づくりの50年計画を

 私は21世紀は日本にとって戦略の世紀、外交の世紀ととらえています。中長期戦略なしにはこの国は溶けてなくなります。
 以前、PHP研究所が50年後の日本を予測するついでに、500年後の日本を想定したところ、ほぼ似たような結果が出たそうです。であるならば、まずは50年間の日本の戦略を立てることが急がれます。
 その際、これまでの延長で、現在ある姿をどう変えるかといった帰納法的手法ではなく、演繹法が求められます。先にあげたNTT改革も、これまでの延長においてどうあるべきか、何ができるかではなく、日本としてどうあるべきかを設定すべきです。政界ではしばしば海外の前例を引き合いに出しがちですが、それではいつもフォロワアーでしかありえません。真の国家戦略には日本独自の設定が必要であり、海外の事例を参考にしているうちは有効な戦略作りはできないのです。要は人材と戦略的思考のインフラを整えることからすべてが始まります。急がば回れ。そのインフラ作りこそが第一ステップです。
衆議院議員 小池 百合子


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